貞山・北上・東名運河事典
ていざん・きたかみ・とうな
6-(2)-② 野蒜築港と道路交通網の整備
~山形県とを結ぶ関山街道の整備~
(『宮城の土木史』から転載)
野蒜を東北の貿易港とするためには、仙台はもとより、福島県、岩手県、山形県、秋田県ともつながる道を考えなければならなかった。
その手始めとして野蒜と山形県を結ぶ関山街道の開鑿(かいさく)計画が起こり、明治12年(1879年)に着手、同15年(1882年)に開通した。この道路は県境付近を除きほぼ現在のJR仙山線と並行しており、海抜594mの地点では長さ200mほどの二車線の隧道を掘鑿した。これは当時としては困難な大工事であり、我が国における隧道開鑿の魁(さきがけ)をなしたものと言われている。ちなみに仙山線が開通したのは、54年後の昭和11年(1936年)のことである。
この構想を立てたのは、明治11年以来野蒜築港事業に携わっていた早川智寛等であったようである。この野蒜築港に促され、関山街道の開鑿(かいさく)に関して、同年5月に宮城県令の宮城時亮(みやぎ ときすけ)と山形県令の三島通庸(みしま みちつね)とが会見している。
その頃宮城県と山形県とを結ぶ道路開鑿の候補地としては、中新田と尾花沢とを結ぶ軽井沢線や秋保と山寺とを結ぶ二口線などもあげられたが、これらはいずれも嶮しい坂道が多くなることから、比較的勾配の緩やかな関山線の開鑿が選定されたのである。
宮城県においては明治12年11月 松平正直(まつだいら まさなお)県令になって着工している。
関山隧道 洞門の広さ 5m 高さ 4m 延長 約250m
▲三島通庸(国立国会図書館蔵)
<関山街道殉難碑>
明治13年から工事が進められた作並新道(関山街道)では、火薬の爆発によって23名(うち胎児1名)が惨死、8名が重傷を負った。その供養碑が、宮城県側と山形県側の2か所に建立されている。
ところで、この火薬は、当時ダイナマイトが無かったことから、白石商会(白石廣造)の手によって東京から海路石浜港(現在の塩釜市浦戸の桂島・石浜)に運ばれ、石浜から運河(御舟入掘)を利用して蒲生に、そして福田町、原町、鉄砲町、元寺小路、定禅寺通、国分町、二日町、北一番丁、木町通、北三番丁、土橋通、石切町、八幡町、荒巻村、郷六村、愛子、白沢、熊ヶ根、作並村大伊勢沢火薬庫とルートおよび時間を定め、三日を要して運搬されたと言われている。粉火薬は木箱に詰められ、それを菰包(こもづつみ)にして運んだという。
※ダイナマイト:1866年に発明。1846年に発見されていたニトログリセリンを、1866年にアルフレッド・ノーベルが珪藻土にしみ込
ませ安全化し、さらに雷管を発明して爆発のコントロールに成功した。
悲劇は、旧仙台藩の境目番所のあった坂ノ下と呼ばれる平地で、人夫の一団が火薬箱をおろして休憩したときに起こった。煙草の火が火薬に引火し、全火薬が爆発したのである。
(出典等)
・ 『宮城町誌』本編(改定版)(昭63.3.31発行) 仙台市「宮城町誌」改定版編集委員会
・ 『仙台市』資料編5 近代現代1交通建設(平成11年3月31日発行)仙台市史編さん委員会
・ 『東北の街道 道の文化史いまむかし』 監修=東北大学名誉教授 渡辺信夫 企画・発行=社団法人東北建設協会
・ 『宮城の土木史』 宮城県土木部・宮城県建設技術協会(平成4年4月1日発行)
・ 『やまがた県土 未来のはなし』歴史の道(三島通庸)
・ 『三島通庸』の画像は、『近代日本人の肖像』(国立国会図書館)から転載
(補記)
我が国で最初にダイナマイトが使用された工事は、柳ヶ瀬隧道工事(長浜~敦賀)とされているようです(下記のサイトを参照)。ただし、当方として、その事実確認は行っておりません。
<日本の土工機械史>
・明治13年6月~ 柳ヶ瀬隧道工事(長浜~敦賀)でダイナマイトを初採用、穿孔はインガソルランドロックドリル製の鑿岩機と蒸気コンプレッサを使用
【関山街道開鑿殉難之碑】 宮城県仙台市青葉区作並字坂下
子爵 三島通陽書
(裏面) 明治十三年七月二十一日爆死セル二十三名ノ街道殉難
者五十年忌ニ当タリ各方面ノ賛助ヲ得テ浄財ノ喜捨ヲ
広ク十方ニ仰ギテ建立ス
昭和四年
発願者 養泉寺廿世 中里泰雄
協賛者 高崎村長 今野久一
※三島通陽:明治30年(1897年)1月1日~ 昭和40年(1965年)4月20日
祖父は三島通庸
(画像提供:宮城県公文書館)
【関山新道開鑿殉難之碑】 山形県東根市関山大滝
山形県知事 従四位勳三等 三浦実生書
(裏面) 明治十三年七月二十一日工事用火薬運搬ノ途中宮城
県坂ノ下ニ於テ四十箇ノ火薬爆発シ多数出夫中左ノ
諸子其難ニ遭フ鳴呼
死者(二十二名) 重傷者(八名) 軽傷者(数名)
施主 関山一同 大正十五年七月二一日
大江四郎兵衛撰 天童 大場兵太郎刻
(注)死者22名に加え、「胎死」が付記されている。