貞山・北上・東名運河事典
ていざん・きたかみ・とうな
8-(6) 昆虫類
この地域には、砂浜海岸・海浜性植物群落・河口域・潟湖・海岸林・向背湿地と湿性植物群落等の、特性に富む昆虫の生息環境があり、多くの特徴的な種が生息している。
そしてこの生息域には、希少種等が少なくない。すなわち、ヒヌマイトトンボ・ヤマト(マダラ)バッタ・ハマスズ・ウミベアカバハネカクシ・カワラハンミョウ等である。
(画像提供:『虫の音World』)
① 砂浜海岸
砂浜海岸は、昆虫の生息環境として特殊な地帯である。
この地域の波打ち際には、ウミベアカバハネカクシが生息する。本種はコウチュウ目(鞘翅目)・ハネカクシ科に属する海浜性の昆虫である。本種はその生息環境が特殊で、砂浜海岸に打ち上げられた海藻の下などに生息し、その生息域が限られている。すなわち、本種が生息する砂浜海岸は、これまで長く自然が保たれてきた自然の海岸である。
コウチュウ目オサムシ科のギョウトクミズギワゴミムシも潮間帯に生息する種で、名取川河口で記録されている。
また波打ち際より少し上がった場所では、オオハサミムシが普通に生息する。ただ本種は、最近増加したゴミの混じる堆積物の下にも生息する。ほかにハサミムシ類では、ハマベハサミムシが生息している。
▲オオハサミムシ
砂浜海岸、および名取川や阿武隈川の河口部とその付近には、ほかにもトビイロヒョウタンゾウムシ(宮城県が分布北限)・ヒョウタンゴミムシ・コヒメヒョウタンゴミムシ・フタボシチビゴミムシ・マルミズギワゴミムシなどの地表性のコウチュウ類が生息し、その種類相は特徴的であり、このような場所が昆虫類にとって極めて重要な生息環境であることを示している。
ヒメオオメナガカメムシ・ハマベエンマムシ・カラカネハマベエンマムシ・ニセハマベエンマムシ等も海浜性である。
▲ヒョウタンゴミムシ
ハンミョウ科に属するカワラハンミヨウは、砂浜に生息する。本種は、熱い夏の砂浜では、長い脚で体を浮かすようにして活動している。
砂浜に対して驚くほどの保護色のハマスズ、砂浜から海浜性植物群落である地区に生息するヤマトバッタ、そしてカワラハンミヨウ等は、この海浜地帯を象徴する種である。
▲カワラハンミョウ
② 海岸林
この地域の樹林帯には、ヤマトアオドウガネ・オオコフキコガネ・シロスジコガネ・クロカミキリなどのコウチュウ類が数多く生息する。またガ類も少なくなく、ハイモンキシタバ・モンホソバスズメ・ハネナガブドウスズメなどの種が含まれて注目される「ガ相」であった。
③ 潟と沼および湿地
このような環境は、開放水面や湿性植物群落地域をともなっている。これらの存在はこの地域の特徴の一つであり、昆虫類の重要な生息環境となっている。
セアカオサムシは、小型であるが上翅の隆起物を含め、重厚な感じのする美しい種である。ヒロムネナガゴミムシやアシミゾナガゴミムシも、平地の湿原に生息する種である。
ガ類にも注目される主があり、例えばガマヨトウは日本固有種(特産種)である。
④ ヒヌマイトトンボ等
ヒヌマイトトンボは日本固有種(日本版レッドデータブック記載の絶滅危惧種)であり、宮城県が分布北限である。水辺のヨシ群落の場所から、陸側約10~20mの草本植物の生育する範囲に多く、雄はヨシの中を高くなく飛翔しているほか、風の強い時には陸側の草の茂みに多く認められる。
アオモンイトトンボは、仙台湾海浜地帯では岩沼市相の釜、赤井江、亘理町荒浜、亘理町浜吉田が既知の生息地であったが、さらに岩沼市長谷釜の集落の南側に隣接する沼とその周辺にも、高密度で生息するのが認められた。
▲アオモンイトトンボ
出 典:『仙台湾海浜地域保全計画(学術報告編)』 平成11年3月 宮城県 ※一部省略して転載しています。
画像提供:宮城県環境生活部自然保護課