貞山・北上・東名運河事典
ていざん・きたかみ・とうな
12-(7) 利根運河~利根川と江戸川を結ぶ船の道~
(運河水辺公園)
【利根運河は】
-
東北地方や北海道からの米、木材、ニシン、カズノコ、昆布等の物資は、銚子から川舟に積み替えて利根川をさかのぼり関宿で江戸川に入って江戸へと運ばれた。この行程では10~14日を要したという。
-
銚子方面からの米穀、海産物、肥料、醤油など、茨城方面からの豆類、藁工品、薪炭等は瀬戸河岸(野田市)で陸揚げされ、野田河岸や流山河岸へ馬で江戸川まで運ばれた。
-
江戸方面からの物資は、流山~瀬戸河岸で陸送され、その後船で銚子や茨城方面に回送された。
-
人流も同様に船戸~流山間は陸路をたどり、利根川や江戸川では船を利用した。
-
しかし、上流の関宿や下流の野田の利根川と鬼怒川の合流点あたりでは土砂が貯まったりして通船が困難になることが多々あった。また、洪水の際に江戸川への流水量を抑制するための関宿の「棒出し」も川幅を狭くするものだった。
-
明治14(1881)年茨城県会議員 広瀬誠一郎は、秋葉庸とともに運河建設を同県令人見寧(やすし)に建議。
-
一方、千葉県令の船越衛(まもる)考えは、運河開削の費用が過大となること、関宿など沿岸各地の民情への配慮などから鉄道敷設をというものだった。
-
人見県令や広瀬郡長は、香取郡長大須賀庸之助らの賛同を得て、船越県令に働きかけ、計画への了承を得た。
-
明治政府によって招かれたオランダ人土木工師ローウェンホルス・ムルデルが、明治18(1885)年に利根運河計画書を内務省土木局長に提出。
アントニー・トーマス・ルベルタス・ローウェンホルスト・ムルデル
(Anthonie Thomas Lubertus Mulder、1848年4月28日-1901年3月6日)
-
明治19(1886)年7月千葉・茨城・東京の3県知事の名で内務省に運河開削への補助金交付要請がなされた。しかし、内務省は、財政上の理由でこれを認めなかった。
-
運河建設に取り組んで来た人見茨城県令が退任、その後の島県令は急死、さらに後任の安田県令(のちに知事)は運河よりも鉄道整備推進論者だった。
-
広瀬は、県や国を頼りにするのをやめ、明治20(1887)年民間による「利根運河創立協議会」を開催し「利根運河株式会社」を設立。設立委員は6名、社長(人見寧)、筆頭理事(広瀬)。
-
ムルデルの監督の下で明治21(1888)年5月に開削に着工、同23(1890)年5月完了(6月竣工式)。
総工費:57万円(当初想定40万円)、延べ人員:220万人
運河の底幅:16.36m 水深:平均低水以下を1.6m(異常渇水時 1.15m)確保
この運河により、関宿経由よりも約38㎞も航路を短縮。
-
明治29(1896)年土浦線(現常磐線が開通)、道路改良が進むなど、物資輸送の主役は陸上交通に移った。
-
年間30~40日におよぶ渇水で舟運が途絶、たびたび発生する洪水や氾濫の被害により、運河の維持管理が困難になっていった。
-
昭和16(1941)年に台風で大被害を受け通行不能となり、翌17年国に買収され運河会社が解散。
-
その後、利根川の洪水を流す役割を持ちつつ、首都圏への生活用水を供給する野田緊急暫定導水路として役割を果たしてきた。
-
現在、行政と民間による利根運河協議会が組織され、利根運河エコパーク構想が実施計画策定のもとで推進されている。
<追記>
利根運河の紹介冊子『利根運河~利根川と江戸川をむすんだ川の道』(国土交通省江戸川河川事務所発行)には「日本でいちばん長い運河」と、他の資料では「日本で最初の洋式運河」との記載があったりしている。これは、「民間」が開削した西洋式運河ということでのことと解される。
宮城県の北上運河は、利根運河に先立ち開削された西洋式運河だが、こちらは明治政府(内務省)事業として実施。
●宮城県の運河
貞山運河(木曳堀:全長約15㎞、御舟入堀:同約7㎞、新堀:同約9.5㎞)
開削は江戸初期~明治初期 大改修は明治16(1883)~23(1890)
北上運河:全長12.8㎞ 明治11(1878)~14(1881)年に開削
東名運河:全長3.6㎞ 明治16(1883)~17(1884)に開削
利根川と江戸川を結び、千葉県野田市、柏市、流山市の3市にまたがる一級河川の運河
流路延長:8.5㎞(利根川高水敷を含む。) 流域面積:25.4㎢
※上部の見出し画像を含め、これらはいずれも2021.11.03訪問時に撮影。
(ムルデル記念通り:運河駅わき)
(運河水辺公園:江戸川の方向)
(利根運河交流館(1階部分)
(利根運河碑)
(ムルデル顕彰碑レリーフ)
(運河水辺公園)
(運河水門:前方は利根川側)
(運河と利根川との合流点:前方は利根川)
(運河と利根川との合流点:運河側)
(運河の光景)
(運河と江戸川との合流点)
<参考資料>
千葉県の歴史 通史編 近現代1(平成14年3月25日発行) 発行:千葉県
流山近代史(『流山市史 通史編Ⅱ』原著全五章)(2008年6月25日発行) 著者:山形 紘
新編 川蒸気 通運丸物語 利根の外輪快速船(2005年3月10日発行) 著者:山本鉱太郎
利根運河~利根川と江戸川をむすんだ川の道~ 発行:国土交通省関東地方整備局江戸川河川事務所
利根運河フットパスマップ(2021年5月版) 発行:利根運河協議会
千葉が誇る日本一 第30回 利根運河 発行:京葉銀行